もうひとつ。第3話は、「そんな馬鹿な」が「ひっくり返って」いた。
私立探偵が主人公の物語では「難事件を抱えた警察から捜査協力を求められた私立探偵が、鮮やかに事件を解決してしまう」という展開が「当たり前」になっているけど、現実世界では「そんな馬鹿な」ことはない。
専門の大学教授が解けない暗号を、テレビの「クイズ王」が解くという展開も、そういう系の物語(主人公の主婦が活躍する2時間物のサスペンスドラマとか)では、ありがちなだけど、これも「そんな馬鹿な」案件。
警察が解けない謎は私立探偵も解けないし、クイズ王はただのクイズ王で、殺人事件の解決に関しては全くの役立たずなのが現実。
つまり、[あってもおかしくはないし、そんなことがあったとしても、世の中の常識が根底から覆る訳ではないが、実際には、虚構の世界(物語の中)以外では起こらないこと]を、ちゃんと「いやいや、現実はそんな都合よくは行かないよ、漫画じゃないんだから」と否定しているのがこの第3話なのかと思っていたら、最後まで見終わってみると、それどころじゃないレベルの「そんな馬鹿な」が繰り広げられた回だった。
輒ち、落下した隕石に付着していた[謎の宇宙生命体]が人類を滅しそうになり(コテコテの古典SF展開)、事件で殺された人間(クイズ王)が「幽霊」で出てきて、その事件を捜査する警察に協力し(殺された被害者が幽霊で出てきて証言してくれたら警察はいらんよ、な、ゴリゴリのオカルト全肯定展開)、素人の歌が侵略宇宙生物を「浄化」して地球を救う(ティム・バートンの「マーズアタック!」展開)。
最も強烈な「そんな馬鹿な」展開は、物語の結末。全視聴者が、終わりまで見れば明らかになると当然のように考えていた、[暗号の謎]は、作者がその存在をすっかり忘れてしまったかのように「放置」され(暗号の意味は勿論、誰が現場に置いていたのかも全くの分からずじまい)、「事件」が「解決」できた理由(輒ち、春堂の娘の歌が宇宙生物を美味しい食べ物に変えた理由)も、全く説明されないまま(未解明のまま)となる(もしかしたら、後のepisodeで「回収」されるのかもしれない。いや、ないな)。
以上、念の為に言っておくと、非難しているのではない。むしろ、絶賛している。
追記1)[田舎町で起きた事件の謎が「放置」される物語]と言えば、我らがDavid Lynchの『Twin Peaks』。実際、『探偵さん、リュック開いてますよ』は、沖田修一版『Twin Peaks』と言えなくもない。クイズ王の幽霊は、Black Lodgeからやってきて、主人公に[よくわからないmessage]を伝える「巨人」や「小人」のようだし、不意に現れて「雰囲気」を醸し出す「飛猿さん」は「丸太おばさん」に見えなくもない。
追記2)それにしても、沖田修一作品は、どうして2周目以降の方が面白いのだろう? 1周目は「そんなでもない」のに、なんかモヤモヤして2周目を見ると、ものすごく好くて面白くなっている。何がどうなってそうなるのだろう? 音楽に似ているのかもしれない。つまり、初めて聴いたときにはピンと来なくても、何回か聴いていくうちに、すごく好くなるタイプの音楽。