2018年6月3日日曜日

5-1:撥ねられ続ける


「一階に、画面を直に触って動かすタッチパネルのキカイが5台ある。空いているキカイのところに行って、キカイに条件を入れる。キカイが条件にあったモノを一覧表で出してくるから、その中の適当なのに触ってナカミを見る。ナカミを見て、まあ大丈夫と思ったら、印刷する。紙は、キカイの上のプリンターから出てくるから、それを持って帰る。あと、そう。窓口に行って、出席カードにハンコももらう。その時に、次回の日取りを云われるので、忘れずに、次も行くようにする。そうすれば、しばらくの間は、月に一回どこからかカネが振り込まれるという、アリガタイようなブキミなような仕組み」
ハンチング帽を被った、顔の皮膚が野球のグローブみたいな、ニヤニヤ笑いのオッサンが、一緒に長い横断歩道を渡りながらそう云って話しかけてくるのを無視して先を急ぐ。
「メンドウだけど、ちょっと変わったアルバイトだと思えば…」
そこでドンと音がして、見ると、オッサンは空中を飛んでいた。信号無視で突っ込んできたSUVに撥ねられたのだ。空中のオッサンの顔はニヤニヤ笑いのままだった気がする。この分だと、アスファルトに落ちたあとの顔もニヤニヤ笑いのままだったろう。撥ねたSUVはそのまま走り去り、周りからわーっと人が集まってきた。遅れそうだったので、その後のことは知らない。

次の週も同じことがあった。同じハンチング帽の、顔の皮膚が野球のグローブようなオッサンが、同じ横断歩道のところで話しかけてきて、今度は赤いコルベットに撥ねられて飛んだ。そして、その次の週も、また次の週も。撥ねられているのはいつも同じオッサンだが、オッサンの話す内容は常に「前回の続き」で、オッサンを跳ねる車の車種は毎回違った。

「毎週の交通事故騒ぎ」を尻目に「EMMA」の建物に入る。一階のロビーには(実際はほぼ全員別人なのだろうが雰囲気からすると)いつもと同じ連中が、そぞろ歩いたり、キカイを操作したり、あるいはただ座ったりしている。「カード」を提出して、椅子に座ってしばらく待つと、窓口の一つに呼ばれた。窓口で待ち構えていたEMMA職員が云った。
「人間の脳に取り憑く神概念は或る種の脳梗塞だ。それが悪性でも良性でも、間違いなく脳の機能にナンラカの制限を与えている。脳の機能は全体の流れで決まるからな。故に梗塞は、何であれ取り除かれるべきだ。違うかね?」
全く同感です。
カードにハンコが押される。