『CASSHERN』で、衝撃の棒読み俳優として出会った西島秀俊(後に、単にそういう喋り方の人だとわかったけど)主演の『ドライブ・マイ・カー』。
(以下、ネタバレありますよ)
もっとスカした映画だと思ったら、割と硬派な印象で好かった。やってることは極わかりやすい。全編を通じて、劇中劇のセリフに、登場人物の内面の言葉を代弁させている。あるいは、登場人物の内面を説明する「ナレーション」の役割か。例えば、『ワーニャ伯父さん』のセリフ練習用テープから聞こえてくる、死んだ妻音の声と、主人公家福との「セリフ」のやり取りが、そのまま、現実の二人の「対話」(死者と生者の対話)になっていて、しかもそれを代行運転ドライバーの女が聞いている、という巧い構造。その上、みさきは、家福と音の4歳で死んだ娘と同い年という「親切」ぶり。
オーディションのシーンで、高槻(岡田将生)が相手役にキスした瞬間に、家福が思わず立ち上がって演技を止めてしまったのは、そこに、2年前に音と謎の間男(家福は高槻だろうと考えている)との間にあったことを「見て」しまったからだろう。
環境音好きなので、全編ほぼBGMがないのも好い。
最後、みさきは、家福のSAABを譲り受けて韓国で暮らしている。頬のキズも手術し直していて、微笑む。「親切」なエンディング。
あと、アバンタイトルが40分! てっきり、オープニングタイトルは無しで最後まで行くのかと思った。つまり、アバンタイトルが「前日譚」なんだよね。先にやったけど。
ついでだから、Lynch道家としての病的に偏った感想を述べると、『INLAND EMPIRE』+『TPR』+『Fire Walk with me』という印象で、わかりやすかったし、好かった(Lynch菌の感染はなかったけど)。それぞれに、『INLAND EMPIRE』:劇中劇が「本編」を「侵食」している。『TPR』:広島から北海道への長旅が、グラナダからツイン・ピークスへの長旅を思わせた。『Fire Walk with Me』:劇中劇の本番の舞台の最後の場面が、ブラックロッジで泣き笑うエンディングのローラ・パーマーのようだと思った。