「我々はどこから来て、どこへ行くのか」という問いに対する答えは既に出ている。我々は、生命現象に依存しない知性現象を作り上げたのち、我々の「遺産」の全てを、その「真の知性現象」に譲渡し、我々自身は穏やかな「自発的絶滅」を遂げる。これが、我々人類の「役割」であり、我々人類の物語の最も理想的な結末である。今以上の科学力だけがこの理想的結末を実現できる。故に、科学のみが「我々人類が取り組むに値する活動」即ち「生業」であり、それ以外の人間の活動は全て、単なる「家事」に過ぎない。
2019年7月2日火曜日
アナトー・シキソの「ヤマタノオロチ」
全部で8人だよ。8人組。いや、ただの人間。集まったバカ同士でチームを組んでいい気になって暴れ回るってのは大昔からある。人間の本性なんだな。今から千年前も今から千年後もきっと同じことをやってる。連中も同じ。8人組だからヤマタノオロチなんだろう、クダラネエ。まあ、イキッて悪党ぶってても所詮は田舎もんだから、都会から来た俺にとりあえず引け目があるのさ。会ってすぐに分かったよ。訛ってるし、着てるものもアレだし。だから、逆にこっちがシタテに出てさ、おだてて酒飲まして一緒にカラオケ歌ってダンスの手ほどきなんかして、ああセンスありますねえ、なんて云ってやれば、もう全然、百年来の大親友のツモリ。で、酔い潰れて寝入ったところを皆殺しにしてやったのさ。楽勝だったよ。写真も撮ったけど見るかい。ちょっとグロいけど。
男はそう云ってスマートフォンを出した。アタシは遠慮した。
あとこれがリーダー格の奴が持っていたナイフ。高そうだったから持って来たけど、あげようか。
男が取り出したナイフにアタシは見覚えがあった。映画の中でランボーが持っているでっかいナイフと同じナイフで、アタシが弟に買ってやった物だ。アタシは要らないと答えた。
男はナイフを無造作にテーブルの上に放り投げると、ビールをまた一本カラにした。冷蔵庫から新しいのを出してやると、礼も云わず受け取り、すぐに開けて口をつける。金持ちのキチガイは世界の全てを自分の所有物のように扱う。
貧乏人の家に生まれたキチガイは、あっさりアスファルトのシミになるか、そうでなくても、結局はこの世のあの世に隔離されて社会から抹殺される。けれど、金持ちの家に生まれたキチガイは、殺されもせず、隔離もされず、ひたすら社会に留まり続けて害を成す。そしてなぜか、後の世で、英雄や偉人と呼ばれるようになることさえある。
同じキチガイでも貧乏人と金持ちとでは全てがまるで違う。
いや、その話は今はいい。アタシは目の前の具体的な一事例に片をつけたいだけだ。相手はクスリ入りのビールを3缶も飲み干し床に伸びている。自分でやったのと同じ手に引っかかるマヌケ。アタシは形見のナイフを手に取ると鞘から抜き、逆さに構えて大きく振りかぶった。
ヤマタノオロチ。股が8つなら頭は9つよ!
最後にアタシは、男を真似て男のスマートフォンで男の写真を撮り、その写真を、男のスマートフォンに登録されている全てのアドレスに送った。