2019年7月3日水曜日

アナトー・シキソの「白雪姫」


会って来たよ。確かに美人だね。けど頭の方はもう完全にダメだ。仮死状態が長過ぎたから脳にダメージを受けたんだろう。いや、もしかしたらその前からダメになっていた可能性はあるヨ。逮捕された七人の証言に拠ると、連中との暮らしは過酷を極めていたようだしさ。若い女が山の中で山賊七人と何ヶ月も一緒に暮らして無事でいられるわけがないもの。妊娠しなかったのが不思議なくらいさ。というか、実際は妊娠して密かに堕ろした可能性だってなくはない。本人は否定しているけどね。

そうそう。娘に対する殺人未遂容疑で告訴されてる母親だけど、実は物的証拠は何もないんだ。あのオツムのイカレタ美人の訴えの他には具体的な証拠は何もない。母親自身は無論無実を主張してるさ。

一緒に暮らしていた七人の山賊たちの話だと、あの美人の精神状態はかなり前から相当に不安定で、合計三度自殺しようとしたらしいね。で、初めの二回は、山賊たちがガラにもなく蘇生させたのさ。連中にしてみたら、自由に出来るせっかくの若い女を死なせてしまうのはモッタイナイと思ったんだろうな。ところが蘇生させると、自殺じゃなくて母親が私を殺そうとしたんだってご当人は譲らない。男たちはそんな馬鹿なって驚いたらしい。こんな険しい山奥に、そう若くもない母親が一人でどうやって来たんだって。

で、三回目の自殺の時に、山賊たちも遂に蘇生を諦めた。蘇生させても、もう使い物にならないと思ったらしい。

で、どうしたかって?

売ったのさ。相手は高貴な血筋の死体愛好家。いるんだ、そういうのが。女の死体を裸にして、眺めたり、嘗め回したり、突っ込んだり、剥製にしたりする妙な輩が。誰って、それは知らない。極秘なんだってさ。高貴な血筋だからだろ。ともかく、七人の山賊はそいつに被害者の死体を売った。死体と云っても本当は仮死状態だったんだけど、ほっといてもどうせ腐るだけだし、だったら高く売れる新鮮なうちに売った方がいいという判断だね。連中はいつだって実際的だよ。

で、その高貴な血筋の、高貴ではないネクロフィリア・プレイの独特な刺激のおかげで、仮死状態だった被害者が息を吹き返し、高貴な血筋の変態は慌てて病院に駆け込んだ。好きなのは、あくまでも死んでる女だからね。こうしてこの件は世の知るところとなったわけさ。

真実を伝えるって? 森で小人達と暮らし、最後に王子様に救われたと信じてるんだからそれでいいじゃないか。