2018年3月12日月曜日

1-2:払暁前


記憶すべきは道順。道順が全て。雨の日も雪の日も。
内階段(闇黒)→共有廊下(月光)→内階段(闇黒)→道路(月光)。
押して歩く→裏に回る→隙間に差し込む。路地に入って抜ける。
大通りの赤信号(点滅)=渡る→走る→止まる。高層←見上げる。
暗証番号→開くガラス扉。
エレベータ(煌煌)に乗り込む=沈む(サスペンション機構)。
ダイナモの高速回転/ワイヤーを巻き取る高周波音。
到着→出る→歩く。
排気口の湯気を屈む/明滅する蛍光灯を聞く/アヒルの三輪車を跨ぐ。
テレビの小さな音/ラジオの大きな声。
地上15階から横に見る赤い月と薄い星座。

線路を潜る車道のアスファルトに張り付いた奇怪なラグ(rug)は、猫の道とトラックの道の切線に現れるべくして現れた遺物。

坂を登ると頂上に犬。
犬:いい朝ですね。
ついて来る犬。
坂を下りて広い道。
犬:じゃあまた明日。
引き返す犬。

払暁前の街の冷えた空気は化学分子のニオイ。
植え込みの服は赤と白の子供用。
無人の管理人室の、人の気配がないという気配。
またエレベータ。この後にも。この後の後にも。
最上階から始めて、上から下に一層ずつ片付けていく。
外階段を降り廊下に戻るドアを引くと(!)開かない。
煙草のニオイ。
階段の上に咥え煙草の男。顔面包帯巻き/詰襟/黒づくめ。
死神B。
「昨日また飛び降りたのさ」
名所だから。
「名所だから」
当分開かない?
「この上の階だけ開いてる」
罠だ…
階段の囲いに片腕を乗せて下を覗き込む死神B。
「ちょうどこの真下」
即死?
「そうでもない」
助かった?
「いや」
止むを得ず外階段を下まで下りる。中庭(駐車場)に出て見上げると、階段から覗く死神Bの煙草の赤い光。それがゆっくりと落ちて来て、足元でこっそり弾けた。
危ないな(軽い非難)。
「外れた(悪ふざけ)」
知らぬ間に横に立っている死神Bは、拾った煙草をまた咥える。立ち昇る煙。
連れて行ったの?
「誰を?」
ここで死んだ…
「痛い痛いって云いながら死んだ?」
そう、その彼を…
「彼じゃない。彼女」
その彼女を…
「なに?」
連れて行った?
「どこに?」
死んだあとに行く所。
「安置所?」
死者の(?)国。
「死後にはどんな世界もなかろう?(再確認と同意要求)」
アンタがそれを云う?
「むしろ他に誰が?」
じゃあ、何もしない?
「いや、これを渡した」
死神Bは光る輪を取り出した。
何それ?
「本物の天使の輪さ。しかも今や貴重な純国産」
ただの30型の蛍光灯だろう?
「バカな!」