2019年2月28日木曜日

7-1:低い橋


普通の大きさの一つ目のギニグをアテクからアコジュした。
ギニグは、一つ、瞬きをした。

包帯を頭に巻いたコドモが、母親に手を引かれて、コンクリート製の低い橋を渡っている。橋の先にはホイクエンと呼ばれる強制収容所があって、エンジと呼ばれる、無知で野蛮で残酷な動物が、徒党を組んで待ち構えている。

コドモは頭の包帯の原因および理由を少しも思い出せない。ただ包帯を巻いて、水の流れていない川の上にかかった低い橋を渡ったら、そこに、エンジというたくさんの敵(その後なんども出会うことになる敵の最初の一団)がいたことは覚えている。そして、きっと死ぬまで忘れない。

エンジと呼ばれる敵たちは、プールの時間にコドモの頭を水の中に押し付けて溺れかけさせたり、正解のないクイズを毎日出しては、罰と称して、コドモに石の粉(エンジの一人がわざわざ自分で石をコンクリートに擦り付けて作ったもの)を食べさせたり、ただの暇つぶしに石を投げてつけて笑ったりする。

驚くには当たらないが(いや、驚くべきか?)、エンジはホイクエンと呼ばれる強制収容所の中だけにいるのではない。世界中にいる。実際、ここ何万年かのこの惑星は、エンジの天下で、迷惑を被ったのはコドモ一人だけではない。世界中の生き物がエンジの被害を受けている。

エンジは大抵の大型生物よりも長生きする。と言っても平均すると百年に満たない。一万年の百分の1。これでは良い兆しを期待する方に無理がある。

川が干上がっている時にしか渡れない低い橋。干上がっている川は橋がなくても渡れる。水嵩が増すと、川は渡れないが、低い橋も渡れない。

大雨の川で溺れた猫の死体を、干上がった川で見つけたその次の日、頭に謎の包帯を巻き、母親(たぶん)に手を引かれて、干上がった川の上にかかる低い橋を渡ると、九の目(ココノメ)のギニグが、エンジたちの死骸の上にまっすぐ立って待っていた。五つボタンの黒い制服の上に乗った※型の顔。九つの赤い目玉がバラバラに瞬きして、バラバラに動く。中央の少しだけ大きい目玉がこちらに視線を向けた。
「ようこそ。臨死界へ」
……ここだけの話、全人類が敵……ここから始めて、それからこの星を全部……
……ここだけの話、全人類の敵……ここから始めて、それからこの星で全部……
……ここだけの話、全人類に敵……ここから始めて、それからこの星へ全部……
DAMN BEAUTIFUL!
「みんなには内緒だよ」