【まえがき】
四畳半の畳に仰向けになった足元に、詰襟が正座して、包帯でぐるぐる巻きの顔面で器用に紙巻きたばこを吹かしていた。
「起きたね。しかし、まだ寝ていたまえ」
素直に従うことにした。
次に目を開けた時、詰襟は消えていた。
代わりにマイクロカセットテープが3巻(#1、#7、#8)。
以下、その手帳の内容を紹介する。
【マイクロカセットテープ#1】
私は不老不死である
私の「エピソード記憶」の「寿命」は49日間
私の「手続き記憶」の「寿命」は60年間
飲食は不要
健康を維持するために烟草と珈琲を適宜摂取せよ
直射日光を避けること(光アレルギーか?)
所謂、死の代理人としての死神をA型と呼ぶなら、私は死神B型である。
【マイクロカセットテープ#7】
生命とは死病である。食べなければ、飢えに苦しみ、挙げ句の果てに死ぬ。人間は気づいていないようだが、それは例えば癌で死ぬプロセスと同じ。死に至るまでの過程の苦しみを和らげるのが、モルヒネか食料かの違い。
【マイクロカセットテープ#8】
私はこれまでに何度か拳銃自殺等で、自らの脳を部分的に破壊しているように思える。それによって破壊された脳細胞と一緒に失われた記憶がいくつも存在するのだろう。
私はかつて自分が残した記録を回収し続けているようだ。