2018年5月1日火曜日

3-6:機械操人


朝来たら巨大機械の電源を入れて昼まで動かす。昼飯の間は止める。昼飯が済んだらまた電源を入れる。途中、お茶の時間に一瞬だけ止めて、あとは夕方の終業まで動かし続ける。数人で働く。

繁忙期には一人で夜のシフトに入り、夜中から朝まで機械を動かす。お茶の時間は取らないで適当に缶珈琲で煙草を吸う。仕事をしたくないから夜に回る。徹夜シフトには残業がないし、機械を動かす以外の作業もない。

広い工場の反対側では、同じ徹夜シフトの別の部のひとりが、こちらの機械よりも更に巨大な機械を動かしていることもある。言葉を交わすことはない。遠いし、機械がうるさいし、そもそもそんな暇はない。

徹夜シフトで一番ツラい時間帯は、夜明け前の2、3時間。昼間働いて夕方疲れてくる感じとは全く違うツラさで、体が冷え切ってしまう。そのまま死ぬまで体温が下がっていきそうな気配なのだが、不思議なことに日が昇って明るくなると元気が戻る。おそらく、サーカディアン・リズムとなにか関係がある。

それに比べると、いわゆる丑三つ時はむしろ昼間よりも気分がいいほどで、仕事も捗る。夜中に一人で仕事をしていると「出る」とか「見た」とかいう話はどこにでもあり、この工場にもあるのだが、この宇宙がそんな子供騙しでは到底済まされないことを既に知ってしまった身では、そんな楽しい経験はできそうもないし、実際できてない。

缶珈琲を啜りながら一服し、次に機械にやらせる仕事の丁合見本を開いて少し読んでみた。

【次の文を読んで、以下の問いに答えなさい】
人間の意識や知覚についての(A)が或るレベルを超えると、人間の体験の場から(B)は消失してしまう。極つまらない例を一つ挙げるなら、現代的科学知識を持つ者は、雷の鳴るのを聞いても、もはや誰一人として雷神が太鼓を叩き鳴らす姿を思い描くことはないのである。このことは、ちょうど、思春期以降に異性の「見え方」が不可逆的に変わってしまうことと似ている。すなわち、脳内のニューロンの回路状況が決定的に変化することで、それまでは気付けなかった世界体験の「裏側」あるいは「真意」を読み取れるようになるのである。

【問1】(A)に入ると思われる語句を以下から選びなさい。
(1)科学的知見 (2)迷妄性 (3)政治圧力 (4)信仰
【問2】(B)に入ると思われる語句を以下から選びなさい。

最後に挟んであった表紙見本を見た。
「現役合格/個別指導COBE」