2018年5月6日日曜日

3-7:猫と煙草


自転車を置きにアパート地階のガレージに入ったら、見覚えのある子猫が駆け寄って来た。アパートの別の部屋に住む姉弟がどこからか拾ってきて、階段のところで弄んでいた子猫だ。親に拒絶でもされて、ガレージで飼うことにしたのだろう。布を敷いたダンボール箱と牛乳の入った容器がガレージの隅にあった。しかし子猫はダンボール箱の囲いを飛び出して外をうろついている。ガレージの暗がりをこんな小動物がウロチョロしたていたら、早晩、出入りする車に轢かれてオダブツだ。そう思ったので、預かっている旨を書き置きして自分の部屋に連れて上がった。

それ以来猫が居る。猫は初めてではないし二匹目でもないが久しぶりだ。

連れて上がってすぐに生の豚肉を目の前に置いたら、ガツガツ食って喉に詰まらせた。アッと思って軽く背中を叩いたら、目を剥いてゲロッと吐き出し、その吐き出した肉にまた急いで食らいついて、今度は体全体でゴクリと飲み込んだ。「入居」と同時に豚肉で窒息死しかけたわけだが、その後、豚肉がこの猫のソウルフードになっている。数日後、健康診断で近所の獣医に連れて行った時にこの話をしたら、生の豚肉はやるべきではないと云われた。野生の肉食獣が食ってる肉はみんな生だろうと思ったが、寄生虫がどうとか云っていたので、なるほどと思い、それ以降は豚肉は火を通したものしかやってない。生は最初の一度きりだ。

猫の同居で煙草が問題になった。猫自身は別に気にしている様子もないのだが、獣医を含む周囲の人間たちが、煙の害や吸い殻の誤飲だのをとやかく云い出したからだ。できるだけ離れて煙草を吸っていても猫の方から近づいてくるので意味がないし、灰皿の灰をイチイチ始末しなけばならないのも鬱陶しい。どうすべきか、煙草を巻きながら考えていると、イタリア・ベネヴェントの魔女を名乗る、見ず知らずの人物から、イタリア語で書かれた電子メールが届いた。ざっと訳すと、

両立が難しいものをなんとか両立させるような努力は無意味。そんな努力に値するものはこの世界には何一つない。どちらかをアキラメルだけ。客観的にはどっちでもいい。主観的には選択の余地はない。二つのうち、ひとつは生き物で、ひとつはそうじゃない。人間にとって「生き物であること」は無視できない属性。故に答えは初めから出ている。
(ベネヴェントの魔女より)

猫は魔女のシモベらしいから、魔女から「脅迫」メールが来たのだろう。