十年以上前から年に三回ほどある夜中のノタウチマワルような腹痛で、今回初めて夜間の急病の診療を看板にしている病院に行ってみた。タクシーの運転手は「私も覚えがありますが、それ、盲腸ですよ」と云った。苦しいので黙っていたが、無論盲腸ではない。年に三回十年以上盲腸になり続ける者はいない。
病院の待合室には昼間と同じだけ診察待ちがいた。急病人を相手にしている病院だからてっきりすぐに診てもらえると思っていたのでアテが外れた。その上、待っているうちに痛みが和らぎ、宿直医の前に座った時にはだいたい治まってしまった。正直にそう云うと、若い医師は「そうですか。じゃあ、診ようがありませんね。もう帰っていいですよ。一度、どこかでちゃんと検査してもらってください」と、詐欺師のような仕事ぶり。
少し経ってから昼間に時間ができたので、詐欺師の助言に従って胃腸専門のクリニックで胃カメラを飲んだ。胃腸の専門医はカメラを操りながら「十二指腸に潰瘍があるけど、こんなのはまだ軽い方で、本当にひどいのになると血を吐くからね。だから、原因はコレではないだろうね」と云った。検査のあとで椅子に座って話をした。「いつも夜中過ぎの明け方前に痛くなるでしょう?」と訊くので、そうだと答えたら、「症状が出た日の前の晩にどんな食事をしたか思い出してご覧なさい。食べ過ぎてたり、脂っこいものを食べてたり、アルコールを飲み過ぎてたりしているはずだから」と云った。ホールで買ったチョコレートケーキをバカ喰いしたのを思い出し、それを伝えると「まず、間違いなく膵炎です」という診断。更に、夜中に痛みで苦しむのが嫌なら、何より食べ過ぎないことで、脂っこいものやチョコレートのような重たいものも控えた方がいいという助言。今度もし症状が出たらどうすればいいのか訊いたら、薬はないので我慢するしかないという無慈悲な回答。
「あとは絶食」
絶食?
相手はうなづく。
「膵臓を休ませるんです」
飲んでいいのは水くらい?
「いやいや。水もダメです。症状が出ている時に胃に何かを入れるのが、この病気には一番よくないわけですから、絶飲絶食です」
胃薬が効かないわけだ。
「むしろ、余計苦しくなったはずです」
そんな気もする。
「そもそも胃が痛いわけじゃないから、胃薬なんて飲んでも無意味です」
会計で処方箋と最寄りの薬局の場所がプリントされた地図を渡された。「コビ薬局」。東隣のビルの一階にある。