2018年4月15日日曜日

2-7:テープレコーダー


あと一晩で港。明日には新天地。体力も神経も消耗するだろう。
早めに寝る。
枕に頭をつけたらナニカが当たった。異物。枕カバーに手を入れる。ある。取り出した。マイクロカセットテープレコーダー。テープが装着済み。イジェクトボタン。取り出す。裏表。手がかりなし。未知のテープを装置に戻す。
再生。
ハブが回る。
声)もしもし、エディ?
留守電のテープらしい。
声)そう、そりゃよかった…
ちがった。電話の録音だ。しかし相手の声は聞こえない。代わりに無音が挟まる。
声)でさ、ウン…そうなんだけど…
声)あの…大事なこと先に云っていい?
声)いきなりだけど、この電話盗聴されてるんだ。
一旦止める。
ナンダコレ?
まあ、いい。再生。
声)どこかに盗聴器が…(ガサゴソ音)あるはずなんだけど…で、たぶん録音もされてるから滅多なことは話せないんだけど…ないなあ、どこだろう?
声)そう。裁判で証拠にされるからね…
声)うん、そう、そのとおり。でも、もう構わないことにしたよ。
声)何って…トム少佐のことだけど。確かにいうとおりだと思ってね。あと、ジュディについてはこちらからは一切話さないから。
次々と登場人物。盗聴の事実を知りながら?
煙草をつけた。
声)ダメダメ。ここは今、禁煙だから。
おっと…。テープを止めて室内を見回す。船窓の円内は夜の海のはずだが今は何も見えない。ふうと煙を吐いて再生。
声)猫に遠慮してるんだよ。だから本当は禁煙じゃなくて断煙。つまり吸う本数を二十年に一本くらいに減らしただけで、やめたわけじゃない。
吸っても吸わなくても死ぬんだから吸えばいいのさ。
声)そういうのってやっぱり死神に魅入られてるんだろうけど、死神なんて実はどうってことないんだよ。死神が祟るのは生命だけだから。
へえ。
声)本当に厄介なのはMr.SoWhat。あれは知性に直接に祟るからね。
…?
声)ダカラナニ氏のことだけど?
急いで止めた。手帳を取り出して古い自筆のメモを読み返す。
>死神は所詮生命現象に祟るだけ。人間にとっての本質的な問題ではない。
>本当に厄介なのはダカラナニ氏。こちらは知性現象に直接祟る。
さっきより真剣に室内を見回し、テープももう一度調べてみるが何もない。
煙草を消す。
再生。
声)そう。魔女の仕業。
声)思考が電波になって漏れ出す。
声)装置じゃない。病気。こっそり感染させる。
声)そうさ。巧妙なのさ。
声)いや、治療法はあるよ。
声)患部の右手を切り落とす。