2019年4月14日日曜日

■合法的タカリ自体をとやかく言う気はない


録画していた『逆転人生』という番組を見た。iPodで採用された「タッチホイール」の特許を巡ってアップルに勝訴した_ただ一人の日本人_というオヂサンを取り上げた番組だ。

番組を見る前は、巨大企業アップルに自分の発明を横取りされた個人が、諦めず戦いを挑んで勝利を勝ち取ったハナシかと思ったのだが、実際は、最近よく聞く、特許という仕組みを利用した「合法的タカリ」に成功したオヂサンのハナシだった。

だから、主人公のオヂサンの「逆転」には全く共感できなかった。ただ、最後まで見るとちょっと気の毒にもなった。番組が、当人とはまるで違う人物像を作り上げようとして、オヂサン自身が当惑している感じがしたからだ。

オヂサンの実情は、借金で行き詰まって苦し紛れに特許出願した「発明」と同じようなものが、のちにiPodでも使われているのを知り、特許の仕組みを利用して金儲けをしただけのこと。肝心なのは、オヂサンが発明した仕組みそのものが直にiPod開発で活かされたのでもなければ、アップルに「盗まれた」のでもないことを、オヂサンもその弁護士も十分に分かっていたこと。そして、当然アップルも分かっていた。当事者全員がそれは十分に分かった上で、単に「先にアイディアを出した方がカネを請求する権利がある」的な特許の仕組みがあるために、オヂサンには金をもらう権利が、アップルに金を払う義務が生まれ、前者はその適用を、後者はその回避を求めて争い、結果オヂサンが勝ったというだけのハナシ。

だから、iPodが世界中で受け入れられ、持て囃され、売れまくったところで、オヂサンは「自分の発明」が世の中に認められたとか、世の中の役に立ったとは少しも思えない(口で何を言っても、本心はそうだ)。

これを最近のことで言えば、新元号「令和」をどこかの誰かがたまたま言い当てたところで、当てた当人は新元号の選定に何の貢献もしてない、というのと同じ。予想がたまたま当たっただけで、新元号の選定に関わっていないのだから。だがもしここに〔新元号を最初に言い当てていた者には、政府にカネを請求できる権利がある〕という仕組みがあったら、その人は政府にカネを請求することはできる。しかし、カネは手に入っても、新元号選定になんの貢献もしていないという事実は変わらない。アップルに勝訴したオヂサンの立場もこれと全く同じ。

もっとイヤなのは、番組制作者自身も、今言ったようなことを全部分かっていること。つまり、オヂサンがそもそも「被害者」ではないことを分かった上で、だから「被害者である」とは一回も言わずに、しかし、全体の印象としてはなんとなく、巨大企業に大事なものを奪われた弱い個人の逆転劇にしたてあげようとしていて、そこが気にくわない。視聴者の気を引きたいのだろうけど、安直。

2019/04/14 アナトー・シキソ