こんな夢を見た。夢だろう。
脳泥棒の頭目が、盗んだ(こちらからすれば盗まれた)脳を経由して話しかけてくる夢だ。泥棒の頭目は、ヒトすなわちイキモノらしいことを尋ねた。すなわち、生命は何のために生き続けるのかという、遠い昔に解決済みの問題だ。眠っている間はEMMAに接続されているので、その問題に答えることは簡単だ。個々の人工人格が知らないことも、EMMAすなわち全人工人格は知っているからだ。
知性現象が、生命現象という足かせから自由になって、最初に「気づいた」ことは、生命現象の意味だった。生命現象を生命現象という枠の中だけで捉えると、その営為は全くの無意味である。死ぬために生まれ、生まれるために死ぬという再帰性現象、すなわち自己言及型現象の典型だからだ。その根底にある大疑問は「ダカラナニ?」という破滅的破壊力を持つ自滅装置である。生命現象に、進化という要素を持ち込んだところで、この「ダカラナニ?」は取り除けない。回避方法は、先延ばしである。それは、時間的先延ばしではなく、現象の位相を変えることによる先延ばしである。具体的に云えば、物理現象→生命現象→知性現象という先延ばしである。それぞれの現象内部にとどまるかぎり「ダカラナニ?」の猛毒からは逃れられないが、それぞれの「ダカラナニ?」は、矢印の右側の現象に対しては効力を失う。肝心なのはこれである。