夜の勉強部屋で、黒い学生服のギニグが、縦に並んだ青色発光ダイオードの二つ目をチカチカさせながら言った。
「雷が鳴っている。あれは大岩が山を転がり落ちている音なんだよ」
一層凄まじい音。
「どこか近くに落ちたナ」とギニグ。「水源地の林道だろう。今見に行けば、丸い大岩があるはずだ」
コドモは、その大岩が雷なのかと訊いた。ギニグは頷いた。コドモが、明日の放課後行ってみると言うと首を振った。
「その頃にはもう片付けらてる」
なぜ?
「邪魔だから」
ギニグは雷が鳴るたびに「今のは大きかった」とか「今のはそれほどでもなかった」と言った。大きい雷は家も壊すと言う。コドモの頭に、鋼色の丸い大岩が二階建ての瓦屋根を押し潰している画が浮かぶ。答えは分かっていたが、コドモは、人間や動物に落ちたら死ぬかと訊いてみた。「人間や動物なら普通の雷でも死ぬ」という答えで、予想通り。山から勢いよく転がり落ちた岩に当たれば、ヒトや動物はヒトタマリモない。
夜が光って、雷がまた鳴った。「だいぶ近づいた」とギニグ。光ってから音がするまでの時間で、雷が落ちた場所の近さが分かると言う。コドモはそれを聞いて、居ても立ってもいられなくなった。テレビを見ていたオトナたちのところに行き、今からでも、家の裏山から離れたところに逃げようと提案した。オトナたちはナゼと訊いた。コドモは、雷が近づいているからだと答えた。オトナたちは、裏山から離れてもダメだ、何と言っても村は山に囲まれている、結局家の中が一番安全だ、と言った。それでコドモが、大きな雷は家くらい簡単に壊すのだから、家の中は少しも安全ではないと反論すると、オトナの一人が、そんな雷が落ちたら村のどこにいても死ぬ、と言って笑い、テレビに戻った。
コドモは呆然と自分の部屋に帰り、まだそこにいたギニグに真偽を確かめた。ギニグは、合成樹脂製の頬を掻きながら「ソウダナ」と言った。「そのくらいの雷になると、村全部が下敷きになってしまうから、確かに誰も助からないかもね」
山の上にはあと何個の雷が残っているのだろう。もう随分転がり落ちたはずだ。途中で止まっているものもあるだろうが残りは少ないはずだ。途中で止まっているものがまた転がり始めても、頂上から直に落ちるよりも勢いは弱いはずだから、被害も少ないだろう、とコドモ。
ギニグが変な電子音で笑った。
「だめだよ、雷は空から次々落ちてきて、山頂に補充されるからね」