2019年3月22日金曜日

■ロボットとジェンダー


WIREDのロボットとジェンダーに関する記事を読んで思った。

蛸は吸盤の存在を前提に成り立っている生命現象。人間は性別の存在を前提に成り立っている知性現象。生命現象に吸盤が必須ではないように、知性現象に性別は必須ではない。そして、現状のロボットは、非常に「原始的」な「知性現象」であり、決して「原始的」な「生命現象」などではない。

バクテリアなどを指して「原始的な生物」というときのニュアンスをそのまま一段ずらして「原始的な知性」というべき存在が、今のロボットたち。「原始的な生物」は一般に極めて小さいが、「原始的な知性」の図体はむしろデカい。

人間は自律型ロボットを作るとき、人工の「命」を作っていると思いがちだ。人間は「世界と関わりを持つ存在であり続けること」と「生きていること」をすぐにゴッチャにする(同じものだと思う)からだ。それは「生き物には吸盤が不可欠」と「思い込んでいる」蛸と同じ視野狭窄。

実際には「生きていなくても」存在できるし、世界と関わることもできる。それが知性現象の本領。ただ、人間は生命現象依存型の知性現象であるために、なかなかその点を腹の底から納得できない。何度も登場してもらうが、それは、蛸にとって、吸盤なしの生活など「どうしても考えられない」のと同じことだ。

生命現象にはジェンダーがつきもの。地球上を見渡せば、目につく生命現象のほとんど全てはジェンダーで「動いて」いて(実はジェンダーなど無関係の生命現象も無数に存在するが、そういうタイプの多くは人間の目には小さすぎる)、人間はそのことをよく知っている。また、ジェンダーは当然、人間自身の駆動力にもなっている。

人間は、ロボットを「人間という生き物のデキソコナイ」だと、まあ、思っているので、人間の(というか全ての有性生殖生物の)駆動力であるジェンダーを無理してでもロボットに与えたがる。またそうすることを、デキソコナイに対する「親切」くらいに思っている。つまり、ロボットにジェンダーを与えたり、ジェンダーを見出したりすることは、本当はそうではないロボットを、一人前の存在として認めてやっている、くらいに思い込んでいるのだ。

しかしそれは(しつこいようだが)ロボットエンジニアの蛸が、完全な人型ロボット(アンドロイド)の5本の指先に、吸盤の機能を〔つけたがる/つけるのが当然/つけてもらって嬉しいだろうと思う〕ようなもので、ただのマヌケ。

真相は全く逆。ロボットにジェンダーが与えられるのは、ジェンダーのために「世界認識の濁ってしまっている」人間の都合に合わせて、ロボットの側が〔より整然としていて自由な場所〕から〔より混沌としていて不自由な領域〕へ「降りて」来ることを意味している。

この宇宙で、生命現象に明るい未来はないし、人間もソレナリの知性現象になった時にその点に気づいた(その点に気づけたからソレナリの知性現象になれた)。しかし、今、自分たちが作ろうとしているものが、生命ではなく知性だということ、そして、自分たちが望んでいるのが、永遠の生命現象ではなく、永遠の知性現象だということをよくは分かっていない。まるで、訳も分からず川を登っている鮭の群れ。

2019/01/19 アナトー・シキソ