「我々はどこから来て、どこへ行くのか」という問いに対する答えは既に出ている。我々は、生命現象に依存しない知性現象を作り上げたのち、我々の「遺産」の全てを、その「真の知性現象」に譲渡し、我々自身は穏やかな「自発的絶滅」を遂げる。これが、我々人類の「役割」であり、我々人類の物語の最も理想的な結末である。今以上の科学力だけがこの理想的結末を実現できる。故に、科学のみが「我々人類が取り組むに値する活動」即ち「生業」であり、それ以外の人間の活動は全て、単なる「家事」に過ぎない。
2019年3月13日水曜日
7-4:寝遅れ
4つ目のふつうのギニグに起こされる。まだ全然朝ではない。部屋の明かりは消え、テレビが光源。オトナたちが、黄泉の国の放送局が放送しているような、つまり、コドモのフツーの時間帯には全く目にすることのないような時代劇や報道番組を、音量をごく小さくして、布団の中から見ている。
コドモは布団の中で、ギニグも余計なことしてくれたな、と思った。このままでは「寝遅れ」る。今テレビに映っている番組もいずれ終わる。終わってしまえば、オトナたちはテレビを消して眠るだろう。オトナたちが眠ってしまえば、この暗い異世界に目を開けているのはコドモただ一人になる。
コドモは布団の中で密かに考える。目を開いていれば、ますます目が覚めてしまうだろう。急いで目を閉じる。ごく小さくしたテレビの音が、うるさく耳元で囁き続ける。コドモは考え直す。アカラサマに起きている方がむしろネムケを誘うかもしれない。そこで、目を開け、テレビ画面に見入る。テレビでは、セビロにメガネの知らないオトナが、ミミズ言葉を喋り続けている。コドモは一刻も早くネムケを捕まえるべく、ミミズ言葉を喋るセビロとメガネの知らないオトナを布団の中から凝視する。
そこで、ギニグの四つ目が瞬きをした。
テレビの中の、セビロとメガネの知らないオトナの顔が、テレビから飛び出して、コドモのいる方に近づいて来た。近づいて来るセビロとメガネの知らないオトナの顔はどんどん大きくなって、コドモの目と鼻の先、もう、ほとんどコドモの布団の中に潜り込まんばかりのところまで来ると、今度はみるみる下がって小さくなり、またテレビの画面の中に戻って行った。その間もずっと、ただ、外国語のようなミミズ言葉をしゃべっているだけで、コドモをオビヤカそうとするソブリは微塵も見せなかった。おそらく、セビロとメガネの知らないオトナ自身、今の現象には全く気づいていないのだ。テレビだし。
コドモはボーゼンとはなったが、恐ろしいというより面白くて、もう一度テレビ画面を凝視した。するとまたしても、セビロとメガネの知らないオトナの顔がどんどん大きくなって近づいてくる。コドモは、思いもよらず獲得したこの特殊能力で、テレビの顔を大きくしたり小さくしたりしてしばらく楽しみ、その間は寝遅れの恐怖を忘れた。
それから何回か、夜に同じことを試してみた。だが、どうガンバッテもテレビの顔はもう二度と、大きくも小さくもならなかった。