2021年5月8日土曜日

筒の一方を隠す習慣を持つ連中

そこにいた連中は皆それぞれに自分の筒を持っていた。筒は両端が開いている。底もないし、フタもない。だから、厳密にいうと管なのかもしれないが、その形状は、やはり、管というよりは筒だ。

連中は、それぞれが持っている自分の筒の一方の口、すなわち穴だけを布などで覆い隠している。もう一方の口、すなわち穴には何の覆いもしていない。一方を隠し、他方は丸出し。その理由を尋ねると、連中は、笑ったり、驚いたり、固まったりした。反応はいろいろだが、要するに誰もがひどく当惑したのだ。

連中にとって筒の一方の口を隠すのは当然すぎるほど当然なのだ。そのことに疑問を持つ方がどうかしている。それは無知というよりも無礼あるいは不躾である。すなわち、それは、謂わば「偽の疑問」であり、自分でもその答えを知っており、だから、訊かれた相手が答えるのに困ることも充分に知っている上で、敢えて発せられる疑問・質問なのだから、その問いかけの根底にあるのは好奇心や探究心ではなく、単なる悪意なのだ。というのが、連中の見解であり解釈だった。

私のこの無礼な問いかけは、私というものが、この場所では部外者であり、新参者であり、あるいは全く異なる存在であることが考慮され、不問に付されることとなった。

「本来ならば」という意味のことを、連中の代表者が、連中の言葉で言った。「最も寛大な処置だったとしても、永久追放に値するものです」

私は翻訳端末機の画面から目を挙げ、感謝の意を表すという「オジギ」という動作を連中に対して行った。連中は、すっかり気を許したというわけではないが、その表情(私には極めて感情が読みにくい顔ばかり)はそれまでよりも和らいだように見えた。

間も無く、連中によって、私の歓迎会が開かれた。連中は、それぞれが持っている自分の筒の、覆いをしていない側の穴に、テーブルに並べられた液体や固体を、好き勝手に入れては、筒を振り回して、陽気に騒いだ。時々、席を立って、離れた場所にある個室に入る者がいた。不思議そうに見ている私に気づいた、連中の中でも私に対して特に理解のある親切な一人が教えてくれたところによると、それは、筒の中に溜まった液体や固体を、筒の隠してある側の穴から外に出すために作られた部屋で、ここではどこの施設や建物にでもあるものだという。

やがて90分が過ぎた。ポケットから出てきたCOBEが「窓」を開いた。