2018年11月6日火曜日

現の虚 2014-2-3【第三試合 白マント対黒マント】


前の時と違う。前の時は椅子に座っていた。今は、枡席に座布団を敷いて座っている。俺の隣に三毛猫、その隣に猫の飼い主の老婆が座っている。観客の感じも違う。今回はみんな人間のようだ。みんな人間だが、みんな老人だ。ざっと見回しても80を越えてないのは俺と猫だけだ。そういう連中と一緒に見ているのは闘技場ではなく土俵だ。

カラス頭は7番目で、位は侯爵さ。でもインチキだけどね。

と、猫。俺は土俵に注目した。締め込み姿の力士ではない者が東西に別れて立っている。東には白い頭巾、白い覆面、白いスーツに白いマントの全身白尽くめの男。サングラスをしていて、それだけが黒い。西には、頭にツノが二本ある、口元が大きく開いた黒いマスクを被った大男。固そうな黒い防護服に黒いマントで、こちらは全身黒尽くめ。

黒い方が白い方より頭ふたつ分ほど背が高い。

ただ、両者が土俵中央に歩いたのを見て分かった。白い方も黒い方も、そのコスチュームの中身はまちがいなくヨボヨボの老人だ。今この瞬間にばったり倒れて死んでも誰も驚かない超高齢者だ。でなければ、高専生が授業で作った二足歩行ロボットだ。どちらも、そんな、ギクシャクでヨチヨチな動き。

黒い方は白い方を指さすと、下の歯が数本しか残ってない口を大きく開け、ナニカ云って挑発した。白い方は一歩下がって意味のよくわからないポーズを決め、その挑発に答えた。両者のパフォーマンスに観客席からまばらな拍手と弱々しい声援が飛んだ。

これからあの二人で相撲を取るの?
見てれば分かるよ。

土俵上の両者は、四股も踏まず、塩も撒かず、仕切りもせず、土俵中央でお互いの腰のベルトに手をかけておずおずと組み合う。豪華で高そうな装束の行司が、組み合った両者の手の位置や足の位置を確認する。行司は、組み合った両者の背中それぞれに手を乗せ、土俵下に陣取った羽織袴の五人の勝負審判に目配せをしてから、ハッキヨイ、と奇声を発っし、後ろに飛び退いた。

動かない。

土俵中央で組み合った白いマントと黒いマントの老人はビドウダにしない。じっとしている。動かない二人の周囲で、キラキラ光る装束の行司が飛び跳ねるように動き回り、ノカッターとか、ハッキヨイとか奇声を発し続ける。

なにこれ?
見ての通り、命を掛けた勝負だよ。

猫は真顔で答える。観客席からは動かない二人に対して、まばらな拍手と弱々しい声援が絶え間なく送られ続けている。

先に死んだ方が負けさ。