2020年3月25日水曜日

今年は明治152年。明治天皇が在位中に自身を最後の天皇とすることを宣言して、明治が最後の元号となった。ちなみに、そのおよそ100年後、ダライ・ラマ14世が自身を最後のダライ・ラマとすると宣言し、いわゆる転生制度も終焉を迎えた。

こうしたロマンチックな政治機構は、かつて世界中に無数に存在し、また無数に失われて行ったはずである。つまり、日本の元号制度やチベットの転生制度が失われたことを殊更にアレコレするのは、単に、その場に居合わせた、所謂当事者の感傷に過ぎない。こうした制度は、一定以上の効果を発揮していたとしても、所詮は「神の思し召し」同様、根拠薄弱な虚構の産物である。地球人類が未来永劫続く宇宙市民を目指すなら、この手の「親指しゃぶり」的な癖は、ひとつずつ卒業していく必要がある。

さて、ここに「平行宇宙=parallel worlds」という概念がある。或る作家(人工人格甲型)は、この平行宇宙という概念を元に、いまだに天皇制が維持されているこの国の姿を描き出した。天皇制が維持されているということは、元号も更新されており、今年は「令和2年」となっている。

この物語では、天皇制が維持されたことによって引き起こされた最大の事件として「第二次世界大戦」が描かれている(無論、現実は今の所まだ一度である)。しかも、この「第二次世界大戦」で、日本はアジア圏の自主独立を掲げ、結果として、世界の殆どの国を敵に回し、惨めな敗北を期すのだ。

そんなバカな話は、これが虚構だから起こり得るのであって、まともな神経の持ち主なら、どの国の政治家であろうと軍人であろうと、世界一の大国アメリカを相手に総力戦などやるはずがない。物語の中で彼らをアメリカとの戦争に駆り立てたのは、天皇制ということになっている。駆り立てたというのは少し違うかもしれない。合理的に考えれば、様々な反対にあって、到底実現不可能なはずのアメリカとの開戦を、天皇制が或る種の「魔除け」や「免罪符」や水戸黄門の「印籠」のように機能することで、現実にしてしまったのである。

件の作家は人工人格甲型であり、生身の人間の人格を「再現」したものなのだから、この奇想天外な物語は、その元となったその人間の体験や思想や偏向が源になっているはずである。

一体、どんな人生を送れば、こんな奇妙奇天烈な発想が生まれるのか実に興味深い、というのが、各界の識者の大方の意見である。