死神にはAB二種類がある。一般的なのはA型で、これは人間に死をもたらす死神。英語で言うところのThe Reaperだ。意味は「刈り取る者」「収穫者」、要するに、大鎌を担いだ黒ローブ姿の髑髏顔のごくおなじみのアレ。たまに空中をふわふわ飛んだりもするとかしないとか。
B型はこれとは全く違う。彼らはどうやら元はただの人間か、人間によく似た生き物だったのが、進化だか退化だか改造だか、とにかく何らかのキッカケで、死神になってしまったのだ。なので、ふわふわ飛んだりはしないし、そもそも、人間の生き死ににも直接何も関与しない。
言ってしまえば実体があるのはB型の方で、A型は、死という現象が擬人化された単なる虚構。言い方がきつければ、観念や概念と言っても構わないが、まあ、実際のところただの精神のアソビ。
死神B型は、さっきも言ったように、生き物の一種だが、生き物としては非常に珍しく、個体に寿命がない。つまり、放っておけば、死神の各個体はずっと「生きている」。
死神の個体が寿命では死なないのは、死神がそれ自体では繁殖をしないためだろう。逆に言えば、ほとんどの生物種の個体に寿命があるのは、次の世代に対する生存資源の解放という意味があるからだ。死神は、元々は死神ではない生き物が死神になる。次世代の誕生に自分たちが全く関与できないということは、自分がいつ「前の世代」になるかも、なったかも、自分では分からないということだ。死神にとって寿命は不合理である。
死の擬人化である死神A型の「仕事」が人間に死をもたらすこと、人間の「タマシイ」を死者の国へと連れて行くことだというは分かりやすい。では、ミズカラも生き物の一種である死神B型の「仕事」とは何か? それは、死神自らが言うところの「除染」である。
人間の場合、「除染」という言葉で真っ先に思いつくのは放射能汚染を取り除く作業だ。死神の場合の「除染」もこれとやや似ているのが、汚染のモトは放射能ではなく、死んだ人間の記憶である。
「死んだ人間の記憶」の最も一般的なイメージは「幽霊」ということになる。しかしもちろん、どんな記憶も何かしらの媒体を必要とする。人間の場合、各個人の肉体がその媒体である。つまり、死んだ人間の記憶など存在しない。存在するのは、死んだ人間への記憶である。残された人間に働きかけることが、死者を成仏させる。それと同じ機構だ。