2020年5月11日月曜日

「#最終回発情期」という言葉を聞いた。曰く、漫画などの物語の最終回で登場人物たちのツガイが一気に誕生する現象。これは、有性生殖動物である人間のサガ。すなわち、人間が繰り広げる(思い描く)どんな物語も、結局のところ、「求愛行動」の「焼き直し」「言い換え」「喩え」にすぎないので、「交尾成立」が、作者にも読者にも、強烈な「一段落感」をもたらす。



『鍵のかかった部屋』特別編の第一回を観て、唖然とした。榎本が初めて登場する、芹沢が金庫に閉じ込められる場面が丸ごとカットされていたからだ。青砥が、依頼者から「社長の自殺に不審な点がある」と相談されてすぐに、(金庫を開けて芹沢を助け出した後で)会社の車に乗って帰ろうとしている榎本に、青砥が「お疲れ様です」と声をかける場面になる。金庫の場面がカットされたことを知らない視聴者は、突然現れた榎本に、初めて出会った青砥が挨拶しているわけだから、これだけでもワケがわからないが、その後、青砥が「!」となって、ものすごい勢いで、榎本に密室を解けるかどうか確かめる状況に至っては、違和感しかないはず。


近頃のドラマは「初回スペシャル」と称して、第一話だけ通常より15分ほど長い尺で放送されることが多いのだが、今回の再放送ではそれが仇になったということだろう。つまり、融通のきかない民放の放送枠で、急にネタギレ(もともとは織田裕二の『SUITS』というドラマを放送していた)になった月9枠に、無理に『鍵のかかった部屋』をねじ込んだから、どうしても初回スペシャルの時間枠を取れず、こういうザンネンな結果になったのだ。もしかしたらあの場面に「今はテレビ画面に出してはいけない俳優」が出演していたのかもしれないが、まあ、違うだろう。


この措置が酷いのは、金庫に閉じ込められた芹沢を、颯爽と現れた榎本が、錠前オタクらしさ全開で見事に助け出す場面が、榎本のというキャラのこれ以上ない紹介になっていること。榎本だけではない。芹沢の「ザンネンキャラ」ぶりも明らかになる。そして、なにより、この偶然の事件によって、3人の主要登場人物が結び付けられる、という大事な意味もある。


初回放送で不可欠の[本題ではない問題を主人公があっさり解決してしまうのを見せることで、視聴者に主人公の凄さを印象付ける場面]をカットしてしまうとは、民放放送というのはなんともはや…。急に来週以降を見る気がしなくなった。