2020年5月23日 土曜日/晴/暖かい
朝の9時頃、老猫の日光浴のために向かいの空き地に行く。料理学校の裏手に当たる。料理学校の建物の犬走りの縁のコンクリに猫と二人で座る。
少しすると、コンクリの上を向こうからアリが来た。ワラジムシ(死骸)を咥えてよろよろしている。しかし、彼女(働きアリは生物学的に全てメスである)の行く手には、香箱座りの爺さん猫が聳えている。彼女がどう出るか見ていると、「猫山」のだいぶ手前でUターンして、よろよろしながら元来た道を一目散に引き返して行った。
しかしそれでは用をなさないだろう。どう考えても、手に入れたオオモノを喜び勇んで巣に持ち帰るところだったはずだ。それとも、大きく迂回する気か?
などと、心配していたら、戻って来た。そうして今度は、さっきUターンした辺りまで来たところで(どうやらその辺にくると前方に巨大な障害物があることに「気づく」ようだ)、向かって右側の「崖」を降り始めた。
崖という言葉は生ぬるい。コンクリの壁の垂直面である。人間ならただの飛び降り自殺で終わる行為。ボルダリングの名人といえども、関取の座布団ほどもあるもの(アリが咥えているワラジムシを、人間の比率に当てはめると、そのくらいの大きさになる)を口に咥えていれば、やっぱり、待っているのは無残な転落死である。
彼女はそこ(垂直面)を何食わぬ顔をして降りている。いや、よく見ると、降りて行くというより、ワラジムシの重さに引きずられて、降りて行く風に落ちているようでもある。ともかく、一見すると、水平面を進むがごとく垂直面を進み、無事地面に降り立った。
しかしそこからが更なる困難の道程。先ほどまで歩いてたコンクリの「舗装」道路とは違い、空き地の地面は荒地である。いや、アリのスケールなら、山あり谷ありジャングルありの、大アスレチックフィールドである。
案の定、彼女は、岩山(人間的には大きめの砂)を登ったり、陥穽(人間的には枯れ草の束の隙間)に落ちたり、草の茎の輪っかにうっかりワラジムシを引っ掛かけてしまい、引き抜くためにウンウンやったりと、今まで以上の苦労を重ねることとなった。
しかし、やがて、他のアリたちがウロウロするショッピングモール的な雰囲気の「広場」に辿り着く。アリたちが巣作りの時に運び出して来た細かい砂で覆われたそこは、彼女が所属する巣のエントランスホールである。
彼女は難事業をやり遂げた。