2020年4月4日土曜日

死神B曰く、絶世の美女も臭い糞をするしかない。これが、知性現象から見た、最も身近な生命現象の呪いだ。最悪の呪いは無論、死である。

不老不死のはずの死神が感染する所謂「生命病」の原因は、魔女に拠ると、死神の身体を構成している組織が、人間の死というものに長く触れることで、自らも死を「思い出す」からだという。「思い出す」とは「遺伝子のスイッチが入る」ということだ。

魔女に拠ると(魔女に拠らなくて、人間の科学者も同じことを言うのだが)、全ての遺伝子が常に機能をオンにしているわけではない。中には、或る状況に置かれた時にだけスイッチが入る遺伝子もある。暗くなったときにだけ電灯を点けるように。

まともに考えれば、身体という媒体が存在しない死者の記憶(死者に対する記憶ではなく、死者自身が持つ記憶)が、それだけで独立してこの地上に「残っている」などということはないわけで、これは、言ってみれば、死神たちの「妄想」ということになる。しかし、この「妄想」が、実際に一定数の死神を「生命病」に感染させ、彼らに老いと病いと死の苦しみを与えるのである。

不老不死の存在である死神は、寿命を持った人間よりも、[純粋な知性現象]に近い存在であり、死神を悩ます「生命病」のメカニズム解明のヒントもそこにありそうだ。

考えてみれば、他者が認識する[死者の記憶]とは、知性現象そのものに他ならない。死神たちは、集めた情報をもとに、死者の記憶が留まり続ける「現場」に赴き、確かにその存在を感じ取り、あるいは死者そのものを直に目にする。だが、そのとき死者が存在しているのは、実を言えば、死神自身の脳(心)の中なのだ。

知性現象は媒体を渡り歩くことができる。もはや身体を持たない「死者の記憶」が存在するというのなら、それを実現している媒体は、それを感じてそれを見ている死神自身の身体(脳)である。

死神の脳は、知性現象の媒体として、人間よりも数倍優れているのかもしれない。だが、媒体として優れているということを別の言い方で言えば、影響を受けやすい、感じやすいということである。

おそらく死神は、文字通り超人的な共感力を持っているのだろう。それがために、死者の無念や執念や怨念を自覚のないまま我が事としてinstallしてしまう。この場合のinstallを日本語で言えば「憑かれる」だろう。そうやって「憑かれた」死神が「生命病」を「発症」するのである。