もちろん。
じゃ、アンタは死神?
よくご存知で。
死神は床に落ちていた地下鉄の切符(使用済み)を拾って、それに鉛筆である住所を書いて俺に渡すと、そこに行けばいいよ、と云った。それは俺の全然知らない住所だった。魔女に見せれば分かるさ。ところで、とおしゃべりな死神。住所って変な言葉だと思わないかい。誰かが住んでるなら住所ってのも分かる。けど、誰も住んでいない会社でもその所在地は住所と云う。アレは、会社が虚構の人格だからさ。会社は法人という一種の人間なんだ。だから、会社が住む所という意味で住所。
という話を聞かされたとコビに話したら、デタラメよ、と一蹴された。
いかにも死神が云いそうなことね。時間が無限にあると、時間を無駄にすることが苦にならなくなるのよ。
コビは、今は誰も住んでない一階がスーパーだったマンションの、裏手にある商品搬入口の横のドアを開けた。ドアには鍵がかかっていたが、コビは使い慣れた感じの妙な道具を使って、あっさりそれを開けた。もしコビが本当に魔女なら、きっと、盗賊から「転職」した魔女なのだ。
廃墟のマンションは、ヒトケどころか電気も水も来てない様子で、昼間なのにとても暗く、カビと埃のニオイに埋もれていた。本当にこんな所に俺の副作用をどうにかするナニカ、もしくはダレカが、あったり居たりするんだろうか。しかし、コビに拠ると、ココこそが死神が教えてくれた住所なのだ。
ここが元スーパーだったからというわけではないだろうが、コビは背負っていた鞄からポス端末のような装置を取り出した。もちろん棚卸しの作業を始めるわけではない。第一、棚に商品は一つもない。そもそも、コビの装置はポス端末に似てはいるがポス端末ではない。では何の装置かと訊かれても、俺には分からない。
ポス端末に似た謎の装置を覗き込みながらガランとした中を歩き回ったコビは、最後に、五つあるレジ台の端の一つの下に潜り込み、何かをベキッと引き剥がした。その辺に置いといて、と、今引き剥がした板を俺に渡すと、暗視ゴーグルを装着して、床に開いた真っ暗な穴に頭を突っ込んだ。
あ、あった。へえ、こんな所にもあったのね。
コビはそう云うと、穴から頭を抜き、暗視ゴーグルを付きの変な顔で盗賊っぽくニヤリと笑った。