『Electric Dreams』第6話「安全第一 safe and sound」を観た。これまでの中で一番「怖い」話だった。というのは、人間の心を操る巨大企業が社会を支配している話だから。
DEX(超高性能のスマホみたいなもの)を売っているSIMIコーポレーションにとって、フォスターの母親は邪魔。SIMI社は、捏造したテロ行為を国民に広めることで、社会の安全を担保するDEXを売りまくっているのだが、フォスターの母親(とその仲間たち)は、SIMI社の「テロ捏造」を世間に知らしめる活動をしているから。
そこでSIMI社は、主人公フォスター当人合意のもと、フォスターを「母親にマインドコントロールされてテロリストにさせられた娘」に仕立て上げて、これもフォスター合意のもとで「テロ未遂事件」を起こさせ、フォスターの母親をテロの首謀者として逮捕させ、学校にまでテロリストの脅威が入り込んだと主張して、生徒全員のDEX装着の義務化も実現した。SIMI社としては万々歳の大成功である。
最後、予定の演説を終えた「母親のマインドコントロールから解放された」フォスターが、アドリブで「安全と安心は同じではないかも…」と、かつて母親に聞かされたことを喋り始め、SIMI社のイーサンが急いでフォスターを壇上から下ろす場面がある。あれは、フォスターの心の深い部分が、自分が騙されていた相手は母親ではなく、SIMI社のイーサンであるということ「知っている」ことを示している、フォスターの「自己」の精一杯の抵抗。
因みに、カーベがフォスターにDEXを(フォスターの母親のカネで)買ってくれたのも、そのあと、急にフォスターの誘いを「パス」したのも、おそらくすべて、DEX経由のSIMI社の「誘導」だろう。なにしろ生徒たちはみんなDEXを装着している。
この物語のモチーフは、管理社会の体制側は、存在しない敵(テロリスト・テロ行為など)をでっち上げ、人々にその存在を信じさせることで、自らの管理体制をどんどん強めていくことができるし、またそうやって管理体制が強まれば強まるほど、本当は存在しない敵(テロリストやテロ行為)を人々に信じさせることも簡単になっていくという、管理社会の悪夢のスパイラル。今のコロナ騒動も状況としてはヤバい。
このエピソードにDickの原作「フォスタ、お前は既に死んでいる」の面影は何もないらしい。というか、このTVシリーズ全体が、原作とはほぼ何も関係がない話だと思う。しかし、考えてみれば、嘗ての『ブレードランナー』も『トータル・リコール』も、原作の面影はほぼ何もない。