2021年1月15日金曜日

Lynchの『INLAND EMPIRE』の基本モチーフはシンプル

2021年1月15日 金曜日/晴れ

Lynchの『INLAND EMPIRE』の基本モチーフはシンプル。撮影が中断された昔の映画の登場人物(ヒロイン)を、リメイク版の女優が成仏させる映画。


リメイク版の主演女優であるNicky(Laura Dern)は、「役に入り込む」というカタチで、自分の内面の様々なキャラクターたちと「出会い」ながら、最終的に、[中断によって「閉じ込められた」ヒロイン]という「人格=役」(どこかの部屋の中でテレビを見ながら泣いている謎の若い女)に辿り着き、彼女を演じきることで(そして映画を完成させることで)、ヒロインを「閉じ込められた場所」から解放、すなわち成仏させる。


Nickyが色々な場所に色々な人格で登場するので惑わされがちだが、あれは全て、彼女が演じるべき[キャラクター=役]を「探している」過程を、具体的に描き出しているから。更にややこしくなるのは、Nickyは[リメイクで新たに制作される映画のヒロイン]と[リメイクの元になった昔の映画のヒロイン]と[昔の映画のヒロインを演じた女優]の「三人」を「追いかけて/追体験」しているから。しかし、すべての撮影が終了したあとで、彼女(Nicky)が最終的にたどり着くのは、かつて生まれかけ、しかし撮影中断によって「閉じ込められた」映画の中の登場人物のヒロイン。


『INLAND EMPIRE』のエンドロールでNickyは、『Mulholland Drive』で殺された女優Camilla Rohdesも居る「Black Lodge」の椅子に腰を下ろし微笑んでいる。まるで、『Twin Peaks: The Return』のBlack Lodgeの椅子に座るDianeの化身のように。



人間がリラックスしていない状態(上向きでも下向きでも、とにかく動転している状態)では、脈拍だの血圧だの呼吸だのが「乱れる」。これらのうちで、人間が意識的にコントロールできるのは、呼吸を制御する横隔膜だけ。心臓を落ち着かせたり、血管を広げたりはできない。動転・興奮すれば、心臓も血管も勝手に速くなったり縮こまったりする。しかし、横隔膜だけは意識的に制御できる。腹式呼吸で横隔膜をゆっくり動かすことで、いわば、「歯車の側を動かすことで、回りすぎているエンジンの回転数を落とす」というような芸当をやるわけだ。「呼吸がゆっくりなのだから、そうコーフンするようなことでもないな」と、自分の体を騙すわけである。