2021年2月9日火曜日

『10 クローバーフィールドレーン』(吹き替え版)を【Prime Video】で面白く観た。

2021年2月9日 火曜日/晴れ

『10 クローバーフィールドレーン』(吹き替え版)を【Prime Video】で面白く観た。


主人公は「リプリー系」の女子。宇宙からの侵略と、頭のイカれたプレッパーオヤジが作ったシェルターでの「監禁状態」からの脱出劇の二重仕掛けのお話。エンディングで、主人公は、宇宙生物に対する人類の反攻作戦に参加する道を選ぶ。


物語の世界の土台は宇宙生物侵略モノ。で、この手の映画では、人類は「突然」襲われるので、もし物語の主人公を物語冒頭で殺したくなければ、1)「たまたま最初の攻撃対象となった地域から離れたところにいた」とするか、2)「攻撃対象となった現場にいたのだが、何かしらの理由で生き延びた」とするしかない。


1)の場合、主人公は最初、最も危険な現場の「外」にいる。だから、物語は、相対的に安全な場所にいる「部外者」が、何かしらの使命や決意や止むに止まれぬ事情によって、非常に危険な場所に乗り込む、という形になる。2)の場合、主人公は初めから、もっとも危険な場所の真っ只中にいるので、物語の初めからゴリゴリの「当事者」となり、1)の主人公のような「選択の余地」はない形で物語を動かし始めることができる。つまり、主人公がわざわざ危険な目に会いに行く理由を考えなくていい。問題は、2)の主人公を、宇宙生物の最初の攻撃からどうやって「守る」かだ。なにしろ、宇宙生物侵略レベルの攻撃なんだから、「攻撃に巻き込まれて死んだと思ったけど気がついてたら生きていた」じゃ、宇宙生物侵略レベルの攻撃の「圧倒的絶望感」に疑問符がつく。


で、多分、製作者が思いついたのが、プレッパー(この映画 John Goodmanが演じている)。プレッパーというのは、ざっくりいうと、世界の破滅に備えて、自前で地下シェルターを用意したりしている、周囲からは変人と思われているが、基本的に善良な人たち。しかし、もしも主人公をプレッパーにしてしまうと、よほどのことがない限りシェルターから出てこなくなる。だから、プレッパーは、冒頭で主人公を助ける役にするしかない。しかし、この場合でも、もしもプレッパーが善良な人間なら、主人公もやっぱりシェルターから出てこなくなる。これでは、宇宙生物の侵略の物語が動かない。で、思いついた。主人公を助けたプレッパーが「普通じゃない」なら、つまり、主人公が、そのプレッパーのもとから逃げ出したいと思うような人間なら(例えば殺人鬼である可能性がとても高いなら)、主人公をシェルターの外に出すことは可能だ。いや待て、しかし、主人公自身が、地上は宇宙生物に侵略されていると確信している(もしくは知っている)なら、いくら頭がイかれていても同じ人間にはちがいないプレッパーと一緒にいる方を選ぶかもしれない。いや、選ぶだろう。では、「宇宙生物の侵略」を、主人公が疑っている状態にすればどうか? そうだ、これでいける。宇宙からの侵略なんてことは、頭のイカれたプレッパーの妄想に違いないと主人公に思わせれば、主人公は、何が何でもシェルターの外に出るだろう。そうすれば、監禁場所からの必死の脱出物語も描ける。これはいい。


とまあ、そういう流れだったんじゃないかな?


それはともかく。


中盤のミシェルとエメットの互いの打ち明け話は、その後の展開の伏線になっている。


ミシェルの打ち明け話:ミシェルの父親は子供に暴力を振るう男だったが、その父親の暴力を身代わりになって引き受けてくれたのがミシェルの兄。それ以来、ミシェルは誰かを助けたいと強く思うのだが、いざそんな場面に遭遇すると、パニックになって逃げ出してしまう。


エメットの打ち明け話:足が早くて、地元の代表になった。大会に出場するために送られてきたバスのチケットを見せびらかして自慢していたのに、大会に行く前日になって急に怖気付いて、「絶対に目が覚めない」と確信できるくらい酒を飲んで、バスにわざと乗り遅れ、その後のバスにも乗らず、結局大会には行かずじまい。


二人とも、いまだにそのことを後悔している。


で、シェルターの中の話に戻ると、エメットは、ミシェルが持ちかけた「危険な脱出計画」に乗る。これはつまり、かつて怖気付いて「バス」に乗らなかった自分に対するリベンジ。しかし「計画」はハワードに「半分」バレてしまう。その結果、エメットは、ミシェルを庇ってハワードに撃ち殺される。ミシェルの「計画」に乗った時点で、エメットの後悔は「解消」されているので、結果的に殺されたことは、まあ、実は物語としては「どうでもいい」。しかし、エメットの死は、ミシェルのとってかつての「父親の暴力を兄が身代わりになって受けてくれたこと」の「再現」。この強烈な「再体験」によって、ミシェルは脱出を強く決意する。無論、ハワードはそんなことは全然気づかない。最後にミシェルは、「助けを求めている人が大勢いる」ヒューストンに向かうのも、「助けられたはずの人を助けなかった」過去の自分に対するリベンジ。


ところで。


この映画で一番ぞーっとしたのは、エメットを殺した直後に、無精ひげを剃り、きちんとした服装になってミシェルの前に現れたハワード。最後の方に出てきた宇宙生物とかより、全然、恐ろしかった。


宇宙生物といえば、あんな、知能指数の低そうな生物が、どうして、地球人類を侵略できるのだろう? この手の頭の悪そうな「宇宙の野生生物」が地球全土を占領しかかる「地球侵略モノ」ってよくあるけど、あれってなんだろう? やっぱり、ああやって地上で暴れまわっているのは、「生物型兵器」と考えたほうがいいのかな。つまり、『エイリアン』のエイリアンみたいな。で、彼らを「派遣」した「侵略宇宙人」たちは、安全な場所にいて、その様子を見ていると考えたほうが筋は通るよね。