探していた【出口】のドアはいくつかあったが、大半はただの絵で、それ以外は出口ではなく入り口だった。ようやく本物の【出口】を見つけ、ヤレヤレと思って〈出て〉みたら、そこもやっぱり〈入って〉いた。
そもそも出口と入り口の違いはそれ自体にはない。
【出口】から〈入った〉場所には草が生えていた。木も生えているし、少し離れたところには大きな池も見える。見上げれば空まである。丸く切り取られた空だ。まるで外のようだが、でもここは〈中〉。僕は近くの壁に触れてみた。手に移ったこの匂いは鉄。ここは鉄の壁で囲まれた〈中〉なのだ。
とても大きな鉄パイプが地面に立っている様子をイメージして下さればよろしいのです、とその女は云った。青いワンピースを着たショートカットのすごい美人。服とお揃いで唇も青く塗っている。ここはその鉄パイプの空洞部分、そしてあなたがさっきまでいらしたのは、その鉄パイプの鉄の部分というわけです。女はそう云って僕に石ころを渡す。僕と女は、さっき云った大きな池の畔に並んで座っている。僕は、渡された石ころを池に投げる。石ころは少しの波紋も立てず池の中に吸い込まれ、音もしない。
僕は女が裸足なのに気付いた。僕も裸足だ。
裸足ですね。
僕は云ってみた。女は、ええ、とだけ答えた。
靴は履かないんですか?
女は黙って僕の顔を見る。
あなただって履いていません。
今は履いてませんが、普段は履いてますよ。
そうなのですか?
うっかりなくしてしまって、今、探してるんです。
女がそっと笑う。それからまた僕に石ころを渡す。僕はそれをさっきと同じように池に投げる。
なぜ池に石を投げるのですか、と女。こうやって池の畔に座って手に石ころを持っていたら……そう云いながら、僕は自分で石ころを探す。だが一つも見当たらない。女がまた石ころを渡してくれる。僕はそれを受け取り、池に投げる。こうやって、池に投げ入れるのが正しい世界の在り方って気がするからです。
女がまたそっと笑う。
ここで僕は【出口】のドアまで戻る。
ヤリカタを間違えてる気がする。手引書を広げてみた。
青い女の服を褒めて、名前を呼びましょう。女の名前は4文字以内で自由に決めてかまいません。
再び池の畔。
ステキな服ですね、ミカさん。女は、ありがとう、と答え、僕に石ころを手渡す。僕は受け取った石ころを池に投げる。
世界の解像度が一気に上がる。
僕は池の中を深い水底に向かってゆっくりと降りていく。