「我々はどこから来て、どこへ行くのか」という問いに対する答えは既に出ている。我々は、生命現象に依存しない知性現象を作り上げたのち、我々の「遺産」の全てを、その「真の知性現象」に譲渡し、我々自身は穏やかな「自発的絶滅」を遂げる。これが、我々人類の「役割」であり、我々人類の物語の最も理想的な結末である。今以上の科学力だけがこの理想的結末を実現できる。故に、科学のみが「我々人類が取り組むに値する活動」即ち「生業」であり、それ以外の人間の活動は全て、単なる「家事」に過ぎない。
2019年6月27日木曜日
アナトー・シキソの「頭、テカテカ」
その青くてスゴイのが机の引き出しから出て来たときには、もう、完全にホラー映画の一場面だった。海坊主かコケシのお化けみたいなカタチ。オレはまだ小学生で、死ぬほどビビった。その時、家にはオレ以外誰もいなかった。
頭周りが2メートルはあるその青くてスゴイのは、自分は二百年後の未来から来たと云った。過去を操作して未来を良くするのだとも云った。具体的には、オレを真人間にして、オレ発信で悲惨なことになっている未来のオレの子孫たちの暮らしぶりを大きく改善させるのだと云った。
オレは、ヤレヤレと思った。時間旅行は、天動説と同じ人類の迷妄さの産物でしかないことを、オレは当時、すでに理解していたからだ。学校の成績はぱっとしなかったが、それはオレが小学生レベルを大きく越えた頭脳の持ち主だったからだ。
この青くてスゴイのは、未来から来たと云うより、あの世から来たと云ったほうが、まだオレに信じてもらえただろう。だがオレは、迷妄な相手のレベルに合わせることにした。オレはそういう小学生だったのだ。
オレは、過去を弄って未来をより良く変えることは可能なのかと訊いた。相手は可能だと答えた。オレは、より良い未来にいるアンタは過去を操作する動機を失うのではないかと訊いた。相手は、ジブンは悲惨な未来から来たが、より良い未来のジブンは過去には来ないだろう。確かにより良い未来のジブンには過去を操作する動機はないと答えた。オレは、それは未来がいくつも存在するということかと訊いた。相手は、そうだ、パラレルワールドだと答えた。
オレはポケットからハイライトを取り出し、相手にも一本勧めた。オレたちはあぐらをかいて向かい合い、しばらく黙って煙草の煙を吸ったり吐いたりした。当時は小学生も普通に煙草を吸ったのだ。
オレは、4歳の時に千年後の未来の子孫の手によって脳の機能強化訓練を受けたことをまず話し、8歳の時には二千年後の未来の子孫によって不老不死の肉体改造手術を受けたことを話した。そしてつい先日、一万年後の未来の子孫の計らいで、その時代の勉強法の定番である瞬間理解洞察装置を使ってM理論を学んできたばかりだと云った。明日からは、50億年後の子孫の案内で、太陽系の終焉を見物に行くことになっていることも付け足した。
それを聞いた青くてスゴイのは、大きな口に真っ白な歯をずらりと並べてニヤリと笑うと、煙草の煙と共に、ふわりと宙に消えてしまった。