2019年6月12日水曜日

アナトー・シキソの「赤毛連盟」


拾った新聞に「赤毛連盟が赤毛の人を募集」と広告が出ていたので、髪の毛を赤く染めて面接に行ったら、ネズミのマスクを被ったナゾの面接官にすぐに染めてるのがバレて、帰れと云われた。染めてませんよ、いや染めてると押し問答。簡単な仕事でカネがもらえると聞いていたオレはネバッた。

で、押し問答をしているうちにカッとなって(相手はナカナカ辛辣なことを云うのさ)、得意の右フックでぶん殴ったら、ネズミのマスクの面接官は床に伸びてしまった。あ、と思ったらやっぱり死んでいた。殴って死なれたのは初めてじゃないから、あ、と思った次第。

オレの次に待ってたヤツがドアを叩いて、ドア越しに、まだですか、と訊いてきたので、オレは、少しお待ち下さい、と答え、とりあえず面接官を机の下に隠し、ネズミのマスクを剥ぎ取って自分で被った。ネズミのマスクの面接官のネズミのマスクの下の顔は、なんか知ってると思ったら、オレの妹のダンナの兄貴だった。たしか、銀行員か詐欺師か、どっちかが仕事だ。

ネズミのマスクを被り上着も面接官のモノを着て、面接官の椅子に座ったら準備万端、ミワアキヒロみたいな声色を使って、どーぞお入りください、と云ったら次に待っていたヤツが入ってきた。

カシコまって入ってきたソイツはオレの上を行っていた。なぜなら、さっき外で待っている時はニット帽のせいで気付かなかったけど、中に入ってきてニット帽を脱いでお辞儀をしたソイツのその頭は、赤毛だとか黒毛だとかいう以前に禿げだったからだ。髪の毛が一本もないツルッパゲ。

長年原子力発電所で働いてたのでホーシャノーで禿げましたがワタシの髪の毛は間違いなく燃えるような赤毛でした、とそのツルッパゲは云いのけた。頭部に髪の毛は一本も残存していないのだから云ったもん勝ちだ。それからすぐに、ホーシャノーってなんでしょうね、とアリエナイ質問のコンビネーション攻撃を繰り出し、オレはネズミのマスクのこちら側でフラフラだ。

ホーシャノーについては私もよく知りませんが、とオレは前置きし、アナタこそ我が赤毛連盟にもっともフサワシイ人物に違いありません、と云ってその自称赤毛のツルッパゲを採用した。

隙をみて逃げたから、その後のことは知らない。ただ、三日後にまた新聞を拾ったら「赤髪連合が赤毛の人を募集」という前とは団体名がちょっとだけ違う広告が出ていた。今度は行かなかった。赤い毛染めがもうなかったからだ。