ウチでぼんやり火星探査機キュリオシティの行く末を考えていると、アイツが来て、オレが死んでると云う。マルイのスーパーの前で死体になって転がってると云う。見物人だか野次馬だかがいっぱい集まってミットモナイたらありゃしないと云う。
マサカと思い、少し考え、マサカと云った。オレは今、煙草の先に灯る火を眺めながら、火星の砂の上でやがて孤独に朽ち果てる探査機について、詩的な思いに耽っていたのだ。こういうことは死んでいては出来ないはずだろ?
それに対してアイツは、そんなことはモンダイじゃない、現に死体はあるのだ、とやや強い口調で主張する。更に、おそらくオマエは、ドッペルゲンガー現象に於ける、怖がる方ではなく怖がられる方に違いないと付け足す。そしてすぐに、その姿を見たら死ぬと云われるドッペルゲンガーの、死ぬ方ではなく、見られて殺すほうなのだ、と云いなおし、分かるか、分かるだろう、とオレに迫った。
イヤ、とオレは答えた。分からないなあ。
実際に行ってミテミレバ分かる、とアイツが云うので、オレは科学雑誌の最新号を畳み、煙草を消し、飼い猫のためにほんの少し窓を開けたままにしてアイツと出掛けた。
オレの死体があるというスーパーのマルイの前はケッコウなヒトダカリだった。警察もどうしてさっさと死体を片づけないのだろう、とオレは思う。アイツが人垣をかき分け、オレが続く。
スーパーのロゴ入りの大きな足拭きマットの上に布を被せられた死体があり、その脇に制服警官が一人立っている。イキダオレだと制服が云う。イキダオレというのは心不全と同じで、理由は分からないがとにかく死んだのだ、と云うかわりに使う空疎なコトバだ。警官が死体に被せた布を捲ると確かにオレと同じ顔。背格好もそっくりだし着ている服まで同じ。マルイの衣料品コーナーの今週の特売品。
どうだい、とオレは訊く。アイツは、そっくりだ、イヤ間違いない、コレは確かにオレだと答える。そうだろう、だから云ったんだ、とオレ。
しかしマイッタな、とオレは思う。これで何人目だ? オレは警察無線に手を伸ばし、思い直して引っ込める。死体を含めここに集まっている全員がオレなのだ。周りの野次馬も今やって来た二人連れも。
困り顔の警官と目が合ったオレはそっと野次馬たちから離れる。あの死体の顔、まず間違いない。しかしここは当人に確かめさせるのが一番だ。電話が鳴った。出た。
「おい、お前、死んでるぞ」