靴を履いてない。靴下もない
板の上で目を覚ました。
床に仰向けでまっすぐ。
暗い。
右に太い人影?
触ると樹皮の感触。
床板と天井を突き破り部屋を貫通している。
背中が寒い。
靴を履いてない。靴下もない。
足の向こうの壁で赤い点が明滅している。
立ち上がって近づく。
インターホンの通知ランプ。
ボタン。
「あ、やっと出たね。急いで下へ来てくれ」
ドアを開ける。
この時、昔住んでいた部屋だと気づいた。
素足でタイル張りの内廊下を歩く。
階段の下で誰かが待ち伏せしている。
踊り場まで戻り、壁を押す。
通路が現れて入る。
通路を追って来る。
突き当たりのエレベータに間一髪。
「あ、来たな」
と、ボイラー技士の背中。
うっすらと煙が昇っている。
焦げてはいけないものが焦げた匂い。
「ちょっとした事故があってね」
指差すために上げた腕は爛れている。
「あの赤い箱を開けて、中から消火器を出して欲しいんだ」
しかしものすごく熱い。
「大丈夫、それを使えば」
床を指差す。
なるほど。
肘まである耐熱手袋をはめて取っ手を掴む。
それでも蓋の熱を感じる。
蓋を開けた。
と同時に、後ろから押されて、中に落ちた。
熱くて暗い竪穴。
きっとこのままどこまでも落ちていくのだ。