麦わら帽。膝を抱えて座っている。
素足で薄い鉄板の上を歩く。
鉄板は湿っている。
周囲を走るパイプの蒸気漏れ。
水も漏れている。
水滴漏れと水流漏れの両方。
補修作業の係員たち。
全員が灰色の帽子と灰色の制服。
黙々。
圧力計の針を読み取る一人の係員。
声をかけて尋ねたが首を振られた。
鉛筆の先を向ける。
『バス停』
上記の向こうにベンチが見える。
「バスが来るんですか?」
係員はその問いに首をかしげる。
バスを待つベンチには先客がいた。
麦わら帽。膝を抱えて座っている。
隣に座った。
「ぼかあ、どうかと思ってるんだ」
麦わら帽が言った。
「結局みんな騙されてるんじゃないかってね」
指に挟んだ紙巻きを口に持って行く麦わら帽。
真っ白い煙を盛大に吐き出す。
「敷島ですよ。やりますか?」
一本受け取る。
「ふだんは朝日なんですよ」
マッチを擦ってくれる。
「先生の宅も朝日ですからね」
旨い。
「やっぱり旨いでしょう。違うんです。やっぱり違いますよ」
高級煙草の敷島をふかしながらバスを待つ。