2020年9月4日金曜日

1-2

麦わら帽。膝を抱えて座っている。


素足で薄い鉄板の上を歩く。

鉄板は湿っている。

周囲を走るパイプの蒸気漏れ。

水も漏れている。

水滴漏れと水流漏れの両方。

補修作業の係員たち。

全員が灰色の帽子と灰色の制服。

黙々。


圧力計の針を読み取る一人の係員。

声をかけて尋ねたが首を振られた。

鉛筆の先を向ける。

『バス停』

上記の向こうにベンチが見える。

「バスが来るんですか?」

係員はその問いに首をかしげる。


バスを待つベンチには先客がいた。

麦わら帽。膝を抱えて座っている。

隣に座った。

「ぼかあ、どうかと思ってるんだ」

麦わら帽が言った。

「結局みんな騙されてるんじゃないかってね」

指に挟んだ紙巻きを口に持って行く麦わら帽。

真っ白い煙を盛大に吐き出す。

「敷島ですよ。やりますか?」

一本受け取る。

「ふだんは朝日なんですよ」

マッチを擦ってくれる。

「先生の宅も朝日ですからね」

旨い。

「やっぱり旨いでしょう。違うんです。やっぱり違いますよ」

高級煙草の敷島をふかしながらバスを待つ。