「我々はどこから来て、どこへ行くのか」という問いに対する答えは既に出ている。我々は、生命現象に依存しない知性現象を作り上げたのち、我々の「遺産」の全てを、その「真の知性現象」に譲渡し、我々自身は穏やかな「自発的絶滅」を遂げる。これが、我々人類の「役割」であり、我々人類の物語の最も理想的な結末である。今以上の科学力だけがこの理想的結末を実現できる。故に、科学のみが「我々人類が取り組むに値する活動」即ち「生業」であり、それ以外の人間の活動は全て、単なる「家事」に過ぎない。
若くして死んだ医師の幽霊が、毎晩夜中にベッドサイドに現れて、「研究協力」の依頼をしてくるのには閉口する。クリップボードのようなものに何やら書類を挟んで、ここにサインをしてくれと指差すのだ。「研究」の内容について訊くと、漠然と「治療法だ」と答える。何の治療法か訊くと、苦しい顔で考え込む。どんな病気の治療の研究かは思い出せないらしいが、とにかく彼にとっては重要な病気、どうしても治療しなければならない病気なのは間違いないらしく、その熱心さは、とても、もう死んでいるとは思えない。